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once 60 暗くなりゆく道

***60***

気付くと朝子はテーブルに突っ伏したままうとうとしだしていた。

眠い・・・。昨夜ほとんど寝ていないんだから当たり前よね。

徐々に朝子の意識が遠のいていく中、不意に有芯の声がした。

「・・・朝子?」

朝子は驚いて顔を上げた。

「わっ・・・」

有芯は額の汗を拭いながら言った。「わっ、じゃねぇよ。何だ、その涙だらけの顔は?」

言われて、朝子は大慌てで涙を拭いた。「えっ、何でも?」

「何でもはないだろう?」

有芯は朝子の隣に座った。

「何で泣いてたの?」

「・・・分かんない」

有芯は僅かに眉を顰め、ため息をついた。

「話す気がないんだな?」

「え? 分からないって言っ・・・」

有芯は朝子の言葉を遮るように、彼女のあごをつかみ、顔を覗き込んだ。彼の射抜くような視線から逃れたくて、朝子は目を逸らそうとしたが、許されなかった。

「分かるんだよ、お前がごまかそうとしてる時の癖くらいな!」

有芯は朝子を睨むと、低い声で「何か頼んだのか?」と言った。

「まだ何も・・・」

「じゃあ行くぞ」

有芯は朝子の腕を掴むと、無理矢理外へ連れ出した。

無言でどんどん歩いていく有芯に、朝子は不安でいっぱいになった。

「どうしたの? ねぇ、有芯・・・」

「どうしたの、はこっちが聞きてぇよ!」

朝子はその場に凍りつき、自分を睨んでいる有芯を見上げた。有芯はまた、ため息をついた。

「そんな怯えた顔するな・・・俺が怖い?」

朝子は黙って頷いた。

「・・・だろうな」

有芯はまた無言になり、朝子の手を握って歩き出した。

朝子は有芯が早足で進むので、時折小走りになりながら彼について行った。

どこに行くの? 私たち・・・。朝子は思った。私たちは、どこに向かおうとしているの?

どんどん街灯が少なくなり暗くなっていく道を、二人は進んでいた。




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